【外国情報】ブラジル史/政治/経済概要

外国情報

 今後いろんな国の政治・経済情勢を紹介していきますが、まずは第1弾。私の出身であるブラジルを紹介します。その後はまずはポルトガル語圏を紹介していく予定です。

 さてブラジルといえば、リオのカーニバル!とかサッカーが思いつきませんか。まあ、間違っていないんですが、サンバ踊れない人・サッカー嫌いな人もいますよ~。かくいう私も踊れません><

 そんなブラジルですが、米国に匹敵する移民大国で、インディオ系、ヨーロッパ系、アジア系、中東系等あらゆる地域出身の方がいて、もちろん肌の色もマチマチです。一般に北部(&北東部)にいくほど黒人、南部にいくほど白人が増える印象です。ちなみに私は南部のほうで生まれ、ポルトガルやイタリア系の移民の血も混ざっています。

目次

概要~南米の雄・ポルトガル語圏最大~

 ブラジルの地図を見れば,一目でわかりますが,南米の半分を占めています。面積は851万㎢,人口は約2億1100万人と、面積&人口数で共に世界第5位の規模です。名目GDPは1兆4千億ドル前後で、世界第12位です(IMF統計2020。だいたいロシアと同程度)。1822年にポルトガルから独立し、公用語はポルトガル語です。といってもポルトガル本国のポルトガル語とは全然違いますけどね。よくポルポル(ポルトガルのポルトガル語)、ブラポル(ブラジルのポルトガル語)とか言って区別してまして、コテコテのポルポルだとブラジル人の私が聞いてもわからない時があります。

 ちなみに通貨はレアル(1レアル=20円前後。2021年4月)となっています。ここ数年ブラジルの名目GDP世界ランキングが下落傾向ですが、レアル安が大きいのではないかと思っています。

政治情勢

 ブラジルの政治なんて日本で気にする人はあまりいないと思いますが、最近は新型コロナ感染者が多いため、ニュースを見かける方もいるかもしれません。

 ブラジルの政治=汚職、くらいのイメージしかない人もいますが、それはさておき、ブラジルは大統領制を取っています。現在の大統領はジャイル・ボルソナロ大統領で、元軍人の方です。極右的スタンスを持つ方で、南米のトランプとも言われて、2019年1月に就任しました。大統領選挙の際には汚職撲滅と犯罪率の低下を公約としていましたが、これに加えて選挙キャンペーン中に興奮した民衆から腹部を刺された事で知名度も上げた事も大きな要因となったのか勢いがついて当選した感じがします。

ブラジル独立まで

 さて、政治情勢に入る前にブラジルの歴史を少し紐解きたいと思います。

 ブラジルにはかつて様々な先住民が住んでいましたが、1500年にポルトガル人のペドロ・アルヴァレス・カブラルがブラジルを「発見」します。その後ポルトガルの植民地下に置かれますが、この時に染料として使われた木が欧州に輸出されており、この木が「パウ・ブラジル」と呼ばれていた事が国名の由来です。現在の正式な国名はブラジル連邦共和国となります。(ちなみにポルトガル語ではBrasilと記載し、発音は「ブラズィウ」が近いです)

 ポルトガル植民地化後ですが、独立に向けて大きく動き出したのは1800年台。当時フランス帝国のナポレオンが欧州で強い勢力を持っており、その最大の敵は英国でした。ナポレオンは、経済面で英国を締め付けるべく、欧州各国に対英国の関係で港の閉鎖を要求。一方ポルトガル(ジョアン6世)はブラジル産品の大きな輸出先である英国との交易停止を望んでいませんでした。

 これを打破すべく、在ポルトガル英国大使はポルトガル王室をブラジルへ遷都させ、引き続きポルトガルと交易を継続させることを提案。ジョアン6世は説得され、ポルトガル王室はブラジルに亡命することとなりました。王室のブラジル亡命後にナポレオン軍はリスボンへ侵攻します。ただ、その後英国軍がポルトガルに駐留したナポレオン軍を追っ払い、ポルトガルは事実上英国の保護下に置かれることとなりました。

 細かい点は端折りますが、英国の統治に気に食わないポルトガル将校の奮起等もあり、対英国への反発が高まる中、ポルトガル政府はブラジルにいたジョアン6世へ帰国を要請。ジョアン6世は子のペドロをブラジル摂政として残し、ポルトガルに帰国します。

 そんな中、ブラジルではジョアン6世の統治に不満だったものも多く、独立の機運が高まり、ペドロがポルトガルに帰国しないように嘆願。この嘆願に対し、ペドロは以下のとおり述べている。

Como é para o bem de todos e felicidade geral da Nação, estou pronto. Diga ao povo que fico

「国益と国民の幸福のためならば、自分は(ブラジルに)留まると国民に伝える準備がある。」

DIa do Ficoより。筆者仮訳。

 この宣言は1822年1月9日になされ、当時ブラジルを統治していたペドロがポルトガル王室と決別の意思を示したものとなりました。その後、ポルトガル王室が、ペドロの全権限を剥奪する旨を命令。これに反発し、同年9月7日、ペドロはサンパウロ・イピランガでブラジルの独立を宣言(この日がブラジルの独立記念日となります)。この時の「独立か死か」という宣言はイピランガの叫び(Grito de Ipiranga)として後世に記憶されることになりました。そしてブラジルの国歌の出だしにも出ます。

イピランガの叫び

ブラジル現代政治

 最新となるブラジル憲法は1988年憲法となり、厳格な三権分立の下連邦制度を採用しています。ちなみにブラジリアには三権広場(Plaça dos três poderes)なんて場所があり、この広場を取り囲むように大統領府、最高裁判所、上下院議会が配置されています(この広場はブラジリアでは数少ない観光地?です)。

三権広場

 ブラジルは一時軍政下に置かれた時期もありましたが、1985年から民主化。民主化後の最初の大統領選挙は議員の間接選挙で行われ文民のタンクレード・ネーヴィス(Tancredo Neves)氏が選ばれましたが、なんとなんと大統領就任式の前夜のミサ中に倒れ、その後就任することなく亡くなりました。結局、副大統領であったジョゼ・サルネイ氏が代行します。その後ブラジルはハイパーインフレに見舞われるのですが、サルネイ大統領代行はうまくこれを処理できませんでした。

 1989年に初めての直接選挙となる大統領選挙が行われフェルナンド・コロル・デ・メロ大統領が就任しますが、汚職疑惑により弾劾裁判にかけられます。結局、弾劾裁判の結論が出る前に辞任したので、弾劾で「罷免された」大統領にはなりませんでした。ブラジル人の私からするとコロルと言えば汚職のイメージですが、公職追放された後にアラゴアス州知事選挙に出馬。これは実りませんでしたが、同州から上院議員に出馬し政界に復帰を果たしています。

 さて、当時そんなコロル大統領の職責を引き継いだのが副大統領だったイタマール・フランコです。知名度は低い大統領でしたが、彼の大きな功績といえば、当時のハイパーインフレ対策にあたり、サンパウロ大学教授のフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ(略してFHC)を財務大臣に抜擢。カルドーゾ氏は財務大臣在任中に「レアル・プラン」(Plano Real)を発表し、ブラジル通貨を「レアル」に変更して、当時2000%を超えていたハイパーインフレの抑制に成功。これが評価され、1994年の大統領選挙に出馬して当選しています。私の知る限りフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ氏が歴代大統領の中でブラジル国民から一番評価されていますね。※余談ですがどのくらいすごいインフレかと言うと、(父がよく言ってましたが)スーパーで売っている物が、その日中に値段が変わってしまうため、何度も値札を張り替える必要があったそうです。

 FHCは結局大統領の職を1994〜2002年の二期にわたって務め、その後2002年の大統領選挙では、ブラジルを一躍急成長させたルーラ大統領が当選します。ちなみに、ルーラは、1989年大統領選挙(コロル勝利)、1994年大統領選挙(FHC勝利)、1998年大統領選挙(FHC再選)に出馬し、いずれも負けていますが、2002年選挙ではジョゼ・セーハ氏を破って、4度目の正直?で大統領の座を勝ち取りました。ルーラ大統領は北東部(ペルナンブコ州)の貧しい家の出身で、所謂エリート層ではありませんが、そういった庶民的な部分が国民に支持されていたように思います。ルーラ政権時代はブラジルが大きな経済成長を遂げたことが支持につながり、2002〜2010年まで二期8年を無事に務め上げました。ただ労働党(PT)はスキャンダルが多く、ブラジル人と会話すると当時はPT派と反PT派の議論が絶えなかった印象があります。

 なお、このルーラ政権を引き継いだのが、ルーラの元で官房長官を務めていたジルマ・ルセフ大統領です。ジルマ大統領は生まれは中部ミナス・ジェライス州ですが、南部リオ・グランデ・ド・スル州の経済学部出身の高学歴者でルーラ大統領とは経歴が異なります。彼女はブラジル初の女性大統領で、軍政時代には収監される経験もあるなど、非常に強い女性です。ジルマ政権時代ですが、ブラジル経済が停滞気味であったこともあり、正直政策として何かやった印象がありません。無難にやってはいたと思いますが。

 ただ面白かった?のが、2014年といえばブラジルのW杯がありましたが、ブラジル代表の勝利次第で政権の支持が上がっていくという、ブラジルらしい一面が発揮されました。その後残念なことにドイツに7−1で破られるという「ミネイラォンの惨劇」(※ミネイラォンはミナスジェライス州のスタジアム)を受けて、支持率も急落しました。別にサッカーファンというわけでもないですが、当日はバーで友人たちと試合を観戦していて(ちなみにW杯のブラジル代表選は「休日」になるんです笑)、ドイツのゴールが入るたびに、落胆や泣き出す人の声が聞こえました。繰り返し聞かされる「Gooooooooooooool da Alemanha」(ドイツのゴールだ!)の実況の声は今でも忘れません。まあでもさすがブラジル人というか、もう5点目あたりから、ドイツ応援し始めていたブラジル人が多かったような記憶があります。。。。。。。。。。。。。。。。。。。すいません、話がそれました。

 さて、そんなジルマ大統領は何とか再選を果たすのですが、その後大規模な汚職捜査(ラヴァ・ジャット・オペレーション:Operação Lava Jato)が始まり、政権への反発が高まったため、弾劾裁判が行われ最終的にジルマ大統領は罷免されました。残った任期はテメル副大統領が代行を務めました。ラヴァ・ジャットの捜査が継続しておりテメル政権は支持率が低くて、国民からもケチョンケチョンでした。一時期は路上デモが非常に多くて、当時は国民総出で(政権への反発を示す)鍋叩きをやっていました。さて、テメル大統領代行ですが、任期満了後の大統領選挙は出馬せず、現大統領のボルソナル氏が当選して、今に至ります。

 ボルソナル氏は割と極端な立場を取る事が多く、例えばアマゾンの森林伐採の促進や、コロナ対策(トランプと同じで、風邪扱い)など、国民の支持に結びついていない感じです。感染対策を行いたい州知事(特にサンパウロ州知事)とも衝突したり、保健大臣を辞めさせたりと、現状政権内でも反発がある状況です。

 さてさて、長々書きましたが政権の現状としては、コロナ対策が筆頭の優先事項でしょう。ブラジルでは中国のシノバック製ワクチン接種が進んでいるようですが、今後のコロナからの回復に注目です。

ブラジル経済 

 さて、ブラジルに限った話ではありませんが、新型コロナの影響が甚大です。ただ困った事にコロナの話を持ち出す前からブラジル経済は長い事停滞していて、ここ数年は新興国(と言い続けていいものなのか……)とは思えない2%以下の水準で続いています。

 IMFの直近データでは2020年の経済成長率をー5.8%と見積もっています(当初ー9.1%から上方修正)。2021年については、+3.7%、2022年は+2.6%を予想しており、新興国の中では回復が遅い予想です。一時期はBRICSの一角だったのが、経済は停滞気味で、レアル安も進んでいます。10年前ほどは1レアル=55円くらいありましたが、今は20円切ってますね。失業率も12〜13%前後と非常に高く、経済回復が急務です。かつては世界7位の経済規模でしたが、IMFのGDPデータを見ると今年は世界第13位まで落ちそうです。

 インフレ率は以前ほど高くなく、今年のインフレ率は4%前後と見られていまして、ここ最近は利下げ傾向にあり、直近のSelic(政策金利)は4.0%となっています。

ブラジル株式市場(Bovespa:ボベスパ) 

 ブラジルの株式市場は、主な取引がサンパウロ株式市場(Bolsa de Valores de São Paulo)で行われているため通称Bovespa、ボベスパと呼ばれています。このうち上場企業のうち、主要銘柄を集めた指標がボベスパ指数(Índice Bovespa)で通称IBOVESPAです。このボベスパ指数は市場の約80%の値動きをカバーしているため、実質的にブラジルの株式相場を包括的に見れる指標となっています。IBOVESPAに含まれるのは例えばペトロブラス、ヴァーレ、アンベブといった大企業です。そして、この取引所を運営しているのがB3(ベー・トレス)で、同社がボベスパ指数を日々算出しています。

 ブラジルで実際に取引をする場合は、(日本と同じですが)Corretora de valoresと呼ばれる証券会社に口座を開く必要があります。取引時間は10〜17時(一部時間違うものもある)ですが、9:45-10:00の間は取引のプレセッション(pre-aberturaと言います)時間が定められています。日本にはない特殊な時間ですが、始値形成にあたって事前注文が行われる時間と思っていただけばと思います。

 日本からブラジル株式に投資したいなら、手取り早いのはボベスパ連動型ETF<1325>を買えば良いと思います。2021年4月時点では、一口170〜180円なので、最低100口からですから、2万円以下で投資できます。なお分配金が価格に含まれているため、配当はありません。ちなみに、チャート的には少し下降気味なところがあるので、お勧めはしませんが、やるなら自己責任でどうぞ。

ブラジル企業の時価総額ランキング

 さて、ブラジルの企業で時価総額順にトップ10まで見ていきましょう。ちなみに、為替レートの関係で、レアルベースの金額を載せますが、一応円換算(1R$ = 20円)も載せておきます。

企業名現地表記時価総額
(億レアル)
時価総額
(兆円)
紹介
ヴァーレVale5,73111.46世界有数の鉱物資源会社。鉄道や港湾
運営も。鉄鋼、ニッケルでは世界首位。
ペトロブラスPetrobras3,0256.05国営石油企業。6500の油田権益を有し、
日量280万バレルの生産力あり。
イタウウニバンコItau Unibanco2,5815.162008年にイタウとウニバンコが合併。
南半球最大の金融機関。
アンベブAmbev2,3294.651999年にブラーマとアンタルティカが合併。
ラ米最大ビールメーカー。コロナ,ガラナ等。
ブラデスコBradesco2,2264.45イタウ合併前まではブラジル最大銀行。
ネットバンクや保険等も強化。
ヴェギWEG1,4462.89南部サンタカタリーナ発。電動モーター
製造でブラジル首位。日本にも進出。
サンタンデール
ブラジル
Santander
Brasil
1,4602.92スペインのグローボ・サンタンデールの
現地法人。GetNet買収等デジタル決済強化。
ドール
ネットワーク
Rede D’Or1,3822.76ブラジル最大の民間病院ネットワーク管理。
マガジン・ルイザMagagine
Luiza
1,3112.62「マガジン」とあるが、メインは小売。ECを
強化しており、ブラジルのAmazon的存在。
べートレスB310512.10サンパウロ証券取引所とマーカンタイル先物商品
取引所が合併。株,通貨,先物等の取引統括。

 簡単に上記ランキングで有名企業を挙げてみましたが、ブラジルに縁がない日本人が見ても、あまりピンと来ない企業ばかりかと思います。ちなみにいくつかの企業は米国市場にも上場しています。これ以外にも上場していないユニコーン企業等いくつかあるので、今後時間できたらブラジルの注目企業や銘柄についても記事を書いていく予定です。

 そのほかブラジルニュースなども随時アップデートしていきます!それでは!

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